海遊び道場

船と海の雑誌「ラ・メール」の特集「海を舞台に世界をつなぐ」に手記を書いたのがきっかけで、 常設コラム「海遊び道場」の執筆を依頼されました(大学の先輩が編集者だったもので)。 では、何を書こうかと考えた末、初心者向けのシュノーケリング講座を書いてみました。 ニューカレドニアへ来る方のお役にもたてるかも?

  

1:海の中をのぞいてみよう!

98年5、6月号掲載

 あなたは南の島へ行ったことがありますか? その海の中をのぞいたことがありますか?そう聞かれて「もちろんあります」と答える方も多いでしょう。ところが南の島へは行ったけれど、海の中は見たことがないと言う方も大勢いるはずです。理由は「およげない」、「なんだかこわい」、「やりかたがわからない」と言ったところでしょう。私の住んでいるニューカレドニアでも、足元に何百、何千という魚が泳いでいるのに、それに気付かずに帰っていく旅行者の方がたくさんいます。今回はそういった方々のために「海ののぞき方」の初歩からお教えしようと思います。

 「海ののぞき方」には色々な方法があります。一番簡単なのは「グラスボトムボート」に乗って海底を船の上からのぞく方法です。これは船底がガラス張になっている遊覧船で、大抵のマリンリゾートで運航されています。本当に海の中を見たことがない方はここから始めてみてください。方法は簡単、数百円のチケットを買って船に乗るだけです。場所にもよりますが、こういった船は魚やサンゴが特に多くきれいなところを選んで運航されているので、きっとあなたは竜宮城のような景色を楽しむことができるでしょう。そして海の中に興味を抱いたら第一段階終了です。

 さて、「もっと海の中を見てみたい!」と言う気持になったあなたには、用意するものが一つあります。それは「マスク」(水中めがね)です。ほとんどの方が使ったことはなくても見たことはあるでしょう。最近では色々な形のものがありますが、目だけではなく鼻まで覆うようにできているのが特長です。なぜマスクが必要かというと、人間の目というのは直接水に触れていては焦点を合わせることができないので、目と水の間に空気の層を作るためにマスクを使います。この段階では特に新しく買う必要はありません。大抵のリゾートで「シュノーケリングセット」とか「三点セット」とか言う名前で安く貸し出されているはずです。これにはマスクの他にシュノーケル(口にくわえるチューブ)とフィン(足ひれ)がついていますが、とりあえずマスクだけを使ってみましょう。

 初めて使うときには波のない遠浅のビーチを選んでください。そう言う場所にはあまりきれいな魚はいないのですが、まずは練習です。腰ぐらいの深さの所まで歩いて行ってマスクを付けてみましょう。このときの注意事項は、鼻までしっかり覆うこと、髪の毛を鋏まないようにすること、バンドの長さを調節して、軽く引っ張っても顔から離れないようにすることです。ちなみにあまりきつくすると顔が痛いばかりか、海からあがったときにタヌキのような跡が顔に残るので気を付けてください。

 マスクを付けたら、大きく息を吸ってから腰をかがめて顔を水につけてみましょう。それまでぼんやりとしか見えなかった海底が突然くっきりと見えるはずです。運がよければ魚が泳いでるかも知れません。不運な人は海底のゴミを発見するかも知れません。息が苦しくなる前に顔を上げましょう。これで第二段階終了です。

 つぎに進むまえに技を一つお教えしましょう。マスクを付けてしばらくすると、必ずガラスの内側が曇ってきます。これを防ぐ一番簡単な曇り止めの方法です。マスクの内側に自分のつば(唾液)をぺっ、ぺっと付けて指でよーくこすり付けてください。そのあと海水で軽くゆすいでからマスクを付ければもう曇らなくなるはずです。

 ここまでで、マスクを使って海の中をのぞくことはできたことと思いますが、1回せいぜい数十秒、それも足の届くところに限られています。この制限を無くしてしまうのが「シュノーケル」です。あなたがレンタルのマスクを使っていたのなら、マスクのバンドに30センチぐらいのチューブが付いていたはずです。それがシュノーケルです。用途は一目瞭然、顔を水に付けたまま息をするための道具です。この道具、慣れてしまえば何でもないのですが、初めて使うときにはちょっとしたコツと練習が必要です。

 まずはくわえ方。シュノーケルには一方の端に口にくわえるためのマウスピースが付いていて、そこには出っ張りが二つ出ています。その出っ張りを歯でかんであとの部分を歯と唇の間にいれて全体を唇で覆い隠します。うまくできた人は口がとんがって、大きなストローをくわえたようになり、シュノーケルから手を離してもぐらぐらしないはずです。出っ張りを飛び越して全体を歯で噛んでしまった人は、手を離すとぐらぐらして安定しないはずです。まわりを唇で覆い隠してない人は、口が横に開いて「イー」と言っていいる様になります。いづれにしても正しくくわえてないとあとで海水をいやほど飲むことになりますので、しっくりくるまで調整してください。

 次に、マスクをしてシュノーケルをくわえて見て下さい。ここで苦しいと感じる人もいるかと思います。それは普段鼻で呼吸しているのに口だけで呼吸しなければならないからです。この苦しさは感じるだけで実際には充分に呼吸できているのです。おちついてシュノーケルをくわえたまま深呼吸を続けてみてください。多少の個人差はありますが、数分もすれば慣れてきて苦しくなくなるはずです。

 ここまでできた人はマスクとシュノーケルを持って、先ほどと同じ腰ぐらいの深さの海に入っていきましょう。そしてマスクとシュノーケルを正しく着けて腰をかがめてゆっくりと顔を水につけてみましょう。一回目でうまく呼吸できなくてもあわてずに落ち着いてゆっくりと何度も試してみてください。顔をつけたまま呼吸できるようになったでしょうか。気の早い人は足を海底から離して泳ぎ回っているかも知れません。それがシュノーケリングです。水泳との最大の違いは何もしなくても息ができると言うことです。だから泳げない人でもシュノーケリングやダイビングは簡単にできるのです。

 残ったもうひとつの道具、フィンを使うのは簡単です。足につけるだけ。フィンを使うと裸足の時より楽に速く進むことができます。基本的にどう使っても何とか進みますが、正しくは、踵をのばして、膝をあまり曲げず、腿から大きくゆっくりと上下させると一番効率よく進みます。また、フィンを履いたまま陸上を歩くのはやめましょう。歩きにくく、みっともないばかりでなく、ころんでけがをするのがおちです。どうしても陸上を歩くときには後ろ向きに歩くことをお勧めします。

 さて、次回はシュノーケリング中のトラブルの対処法として、シュノーケルやマスクに水が入ってきたときの水の抜き方などをお教えいたしましょう。