海遊び道場

船と海の雑誌「ラ・メール」の特集「海を舞台に世界をつなぐ」に手記を書いたのがきっかけで、 常設コラム「海遊び道場」の執筆を依頼されました(大学の先輩が編集者だったもので)。 では、何を書こうかと考えた末、初心者向けのシュノーケリング講座を書いてみました。 ニューカレドニアへ来る方のお役にもたてるかも?

  

3:シュノーケリングに適している場所選び

98年9、10月号掲載

 前回まででマスク、シュノーケル、フィンの基本的な使い方の説明を終わりました。今回は実際に南の島へ旅行したとき、どういうところでシュノーケリングをしたらよいかと言うお話しです。

 今回のお話しの前提は、皆さんが白砂と珊瑚礁の典型的な南の島のリゾートを訪れたということにしておきます。

 初めてシュノーケリングをして見ようと思ったあなたが訪れるのは、きっと海水浴に適した白砂のビーチでしょう。一般に波もなく遠浅で海水浴の延長で気軽に挑戦できます。この連載の第一回目から読んでいただいている方はピンときたはずです。そうです、そこはシュノーケリングの練習には最適ですが、あまりカラフルな魚のいない場所の典型なのです。なぜかというと、魚の色合いは住んでる場所に合わせた保護色をしていることが多いので、砂地にいる魚は砂色もしくは透明に近い色をしていることが多いからです。なじみの深い魚の名前で言えば、ハゼ、キス、サヨリなどの仲間です。加えてグアムなどでは大量のナマコも見ることになるでしょう。ではカラフルな熱帯魚はどういうところにいるのでしょうか。答えはズバリ、珊瑚のあるところです。

 ビーチから海に入ってしばらく沖にむかって泳いでみましょう。水深2〜3mの所まで行くとたいてい小さな珊瑚の塊が見つかるはずです。小さいもので直径50センチ位から大きなものでは数メーターの塊があるはずです。このような塊が魚にとって絶好の隠れ家となって、いわゆる熱帯魚の住みかとなっているのです。珊瑚の塊を見つけたらよーく目をこらして見てください。珊瑚や岩の陰に隠れて赤、青、黄色の小さな魚が群れているはずです。これがあなたと熱帯魚との最初の出会いとなるはずです。ここまでくると、あなたはもっときれいな魚、もっと大きな魚、そしてもっと沢山の魚を求めて沖へ沖へと泳いで行ってしまうことでしょう。そしてその先に珊瑚礁の海の落し穴が待ち受けているのです。

 珊瑚礁の海の特徴は、陸地からしばらくは非常に浅く穏やかな様子をしていますが、ある所で急に深く落ち込み、海流や潮流が急になることです。いったん流れに捕まってしまったら、私のようなダイビングインストラクターでも元の場所に泳いで帰ることができないこともあります。元の場所に戻れなくてもなんとか陸地にたどり着く知識と体力があったので今でも生きてはいるのですが・・・。私の失敗談は話せば山ほどあるのですが、それはさておき、皆さんにはシュノーケリングで危ない目に遭わないための注意事項をお話ししておきましょう。

 まず、ありきたりの言い回しですが「海は生きています」。さっきまでは流れていなかったのに3分たったら泳いでも追いつかないほどの流れが出ることもあります。1m前に出たために流れにはまる事もあります。シュノーケリングで一番気をつけなくてはならないのが海流や潮流です。私の様なプロと称している人にしてみればしては、事前に潮汐表や地形図などで予想をつけなくてはなりませんが、皆さんの場合はそこまで出来ないし、する必要もありません。ではどうするのかと言えば答えは簡単、地元の人にシュノーケリングをしても安全かどうかを聞けばよいのです。地元の人とは良くしたもので、自分が潜らなくても危ないところは良く知っているものです。あなたのいるビーチの端にいかにも珊瑚のありそうな岬があったとします。そこにシュノーケリングにいく前に、ビーチバーにカッコ良いお兄さん(お姉さん?)がいたら一言きいてみてください、「あそこは泳いでもだいじょうぶ?」。まあ何もビーチバーでアバンチュールの予感を期待しなくともホテルのレセプションやコンセルジュでも教えてくれるでしょうけれど。

 海の流れの次に気をつけなければならないのがその土地にいる危険な生物です。実際にはシュノーケリング中に人間に危害を及ぼす海洋生物はクラゲの他にはほとんどいませんが、土地によってはエイ、オコゼなどの毒をもった生物が海底に潜んでいることもあります。これも地元の人に聞けば教えてくれるでしょうし、それ以前にむやみに海底に手や足を着けなければ、まず被害に逢うことはないでしょう。シュノーケリング中はむやみに物に触らないことが賢明だと覚えておいてください。ちなみに南の海にはサメの仲間が一杯いますが、これはかなりしつこくチョッカイを出さない限り無害ですので恐れる必要はありません。

 もう一点、気を付けてほしいのが日焼けです。シュノーケリングに夢中になっていると時間のたつのも忘れ、夜ホテルに戻ると「因幡の白兎」状態、ベットに横になることもできないという人の話をよく聞きます。背中は常に日差しにさらされているにもかかわらず、海水で体が冷やされているため気付かなかったという人達です。日差しの強いところではTシャツを着るなり、十分に日焼け止めを塗るなり、日焼けには十分注意してください。

 さて、前回の話の終りに私の住んでいるニューカレドニアの海を紹介すると書いてしまったので、最後に少し触れておきましょう。

 もしあなたがニューカレドニアでシュノーケリングをするのなら、私のイチオシはアメデ島です。首都ヌーメアから船で約45分のこの島は、遠すぎず、かつシュノーケラーにとって天国のような所です。島のビーチから100mも沖に出れば(波打ち際にはたいした魚はいませんよ!)目の前を覆い尽くすほどの魚に囲まれ、バラクーダやナポレオンフィッシュといった外洋性の魚たちも手近に見ることができます。さらにアメデの良い所は、どこまでいっても潮の流れが無いことです。

 次のお勧めはエスカパード島です。アメデに比べれば透明度は落ちるもののヌメアから15分の近さと、島の桟橋の右側に点在する珊瑚に集まる魚たちはアメデに優るものがあります。

 もう一箇所挙げるとすればイルデパン島ですが、海も島も非常に綺麗なところですがヌメアから飛行機で移動しなくてはならず、シュノーケリングに限っていえばコストパフォーマンスに疑問の残るサイトです。もっともハネムーナーにとっては定版のビーチリゾートで、その実力の疑いようもない島であることは間違い無く、私如きが口をはさむ余地はないのですが。

 今回までのお話しでシュノーケリングについての基本はつかめたことと思います。だだしシュノーケリングでは水面から水中を見ることしかできませんでした。次回は一歩進んでスキンダイビング(素潜り)についてお話ししようと思います。