海遊び道場

船と海の雑誌「ラ・メール」の特集「海を舞台に世界をつなぐ」に手記を書いたのがきっかけで、 常設コラム「海遊び道場」の執筆を依頼されました(大学の先輩が編集者だったもので)。 では、何を書こうかと考えた末、初心者向けのシュノーケリング講座を書いてみました。 ニューカレドニアへ来る方のお役にもたてるかも?

  

4:スキンダイビング(素潜り)への挑戦

98年11、12月号掲載

 さあ、いよいよ今回はマスク、シュノーケル、フィンを使ってのスキンダイビング(素潜り)に挑戦しましょう。スキンダイビングなどと大層な名前がついていますが、むつかしく考えることはありません。皆さんもプールで遊んでいるときに息を止めてプールの底までいったことがあるでしょう。それの延長です。

 まずは前回までで覚えたシュノーケリングの状態から始めます。水深2m位の所でシュノーケルを使ってゆっくりと呼吸を整えてください。手も足も動かさず、水面にプカプカ浮かんでいる状態です。呼吸が落ち着いてきたら真下の海底に何か目標となるものを探してください。岩でも珊瑚でもナマコでもかまいません。まずは「あそこまでいくぞ」という気持ちが一番大事になります。目標が決まったら一息大きく息を吸い込んで息を止めます。ここから先は文章で書くと長くなりますが、すべて一連の動作です。

 まず腰を勢い良く曲げて頭を目標に向けます。このとき頭は海底の目標に向けますが、顎を上げて目線はあくまで目標に向けたままにしてください。ここで目標から目を離すと方向感覚を失って水面に逆戻りしたり、水中で一回転してしまったりして目標には近づけません。

 目標に頭を向けたらすかさず水面に残った足を空中に蹴り上げます。これは一瞬のことですが、うまくできれば水面で逆立ちをしたようになります。逆に言えば、まずは海底に潜ろうとせず、水面で逆立ちをする練習をしてみてください。だいたい初めて潜ろうとする人は、息を止めたとたんにあわててしまって、逆立ちの姿勢になる前にがむしゃらに手を使って潜ろうとして失敗しています。なぜでしょうか。それは潜ろうとするまえに息を大きく吸ったために、肺にある空気が大きな浮袋となって上半身を水面に戻そうとするからです。これを防ぐためにはきれいに逆立ちをして、水面にでた足の重さで上半身を真っ直ぐに海中に押し込んでしまわなくてはなりません。目標を見失わないようにするのも、上半身を下半身の重さで真っ直ぐに沈めるためです。逆立ちは出来たでしょうか。目標を見失わずに逆立ちが出来た人はもう足の先まで海中に潜っているはずです。

 そう言えばいい忘れていたここが一つあります。シュノーケルをくわえたまま頭を水中に入れれば、当然シュノーケルの中に水が入ってきます。水面に戻って息を吸う前に、必ずシュノーケルの水抜きをしてください。ところでやり方を覚えてますか。ここで少しおさらいをしましょう。

 水面に戻ったらシュノーケルをくわえたまま一気に息を吐き出して水を外に吹き飛ばしてください。次に息を吸うときは、少し残った水を吸わないようにゆっくりと息を吸って、もう一度フッと勢いよく息を吐き出して水を完全に取り除いてくだい。ラメールのバックナンバーを探せばもっと詳しく説明してあります。

 うまく逆立ちから水中に入れたら、後はフィンを蹴ってどんどん潜っていけるでしょう。息が苦しくなる前に水面に戻り、シュノーケルの水抜きをしてください。そしてまたシュノーケルで呼吸を整えたら、より深く、より長くをめざしてくり返し練習しましょう。そして深さ3メートルぐらいまでいけるようになると、次の課題がまっています。耳抜きと言うテクニックです。

 さて、深さ3メートルぐらいまで潜ると、耳が痛くなってくるはずです。人によっては1メートル潜っただけでそうなることもあります。これは耳の鼓膜が水圧によって耳の奥に押されて起る痛みです。耳が痛くなったらそれ以上がまんして深く潜ってはいけません。より深く潜ると鼓膜がさらに押され、最後には鼓膜が破れてしまいます。ちなみに鼓膜は破れても、しばらくすると自然にもとに戻りますが、海水が内耳に入って平衡感覚を失ったり、あとで内耳炎をおこしたりと、大変な事になります。

 それではより深く潜るにはどうしたらよいのでしょう。鼓膜が外から押されて痛いのですから、鼓膜を内側から押し返してやればよいのです。耳の穴は非常に細い管で鼻とつながっています。そこで鼻の奥に空気を送り込んでやると、空気はその管をとおって耳の内側にとどいて、鼓膜を内側から押す事ができるのです。なんだか難しそうですが、やってみるとたいしたことはありません。まず大きく息を吸ってから鼻をつまんでください。そのまましっかり鼻を塞いだまま、鼻に息を送り込んでください。鼻を塞いだまま鼻をかむような感じです。そうすると耳の中で音がしたり、空気が抜けている感じがするはずです。それが耳抜きが出来た状態です。みなさんできたでしょうか。

 陸上で耳抜きができたら、いよいよ素潜りをしながらの耳抜きです。素潜りで2〜3メートル潜ると、耳に違和感を感じてくるでしょう。そこでマスクの上から鼻をつまんで耳抜きをします。うまくできると耳の違和感はきれいになくなるはずです。もし息がもつならば、もう少し深く潜ってみましょう。するとまた耳に違和感を感じてくるはずですから、もう一度耳抜きをしてください。このように耳抜きとは一度やれば良いものではなく、潜る深さに応じて何回でも必要になってくるものだと覚えておいて下さい。

 陸上では耳抜きができるのに、水中ではできないという方に耳抜きのコツをお教えしましょう。まずは早め早めに行って下さい。耳が痛くなってからではなかなか抜けにくくなってしまいます。もうひとつ、頭が下を向いていると耳抜きはできにくくなります。いそいで深く潜ろうとしないで、一度体を起こして頭を上にしてやると抜けやすくなります。

 慣れないうちは耳抜きをするだけで、息が苦しくなって水面に戻ってしまいがちです。何回も練習して、落ち着いてより深く潜れるようになってください。すぐに5メートルぐらいは潜れるようになります。がんばれば普通の人でも20メートルぐらいまではいけるようになるはずです。

 皆さん、潜れるようになったでしょうか。シュノーケリングで水面から眺めていたのとは、まるで別の世界が広がってきたことでしょう。だいたい魚というものは、鳥に襲われないように水面からは見えにくい色合いをしています。ちょっと潜るだけで、水面からは見えなかった魚達がいっぱい見えるようになるのです。さて、ここまで出来るようになると、すこしは道具にもこだわりがでてくることでしょう。次回はマスクやフィンなどのダイビング用具についてお話しましょう。