海遊び道場

船と海の雑誌「ラ・メール」の特集「海を舞台に世界をつなぐ」に手記を書いたのがきっかけで、 常設コラム「海遊び道場」の執筆を依頼されました(大学の先輩が編集者だったもので)。 では、何を書こうかと考えた末、初心者向けのシュノーケリング講座を書いてみました。 ニューカレドニアへ来る方のお役にもたてるかも?

  

6:スキューバダイビングへのお誘い

99年3、4月号掲載

 今まで5回に渡ってシュノーケリングとスキンダイビングについてお話ししてきました。これまでの説明で皆さんはかなり自由に水中を散歩できるようになったことでしょう。とは言っても水中にいられる時間は、息を止めていられる僅かな時間に限られています。そこで最終回のお話は、より長く潜っていられるスキューバダイビングについて皆さんにご紹介しようと思います。

 スキューバダイビングというのはいわゆるボンベを使って潜ることで、単にダイビングと言われることの方が多いものです。さて、あのボンベの中には何が入っているのでしょうか。誰が言い始めたのか「酸素ボンベ」と思っている方がとても多いのですが、中身は普通の空気なのです。スキューバダイビングの原理はいたって簡単で、陸上の空気を一般にボンベと呼ばれるタンクの中にいっぱい詰め込んで水中に持っていき、タンクの中の空気を吸って水中で呼吸をするというものです。そう聞くと一般の方の最初の不安は「タンクの中の空気がなくなったら?」と言う疑問でしょう。そしてその疑問から「ダイビングは危険なのでは?」と思われる方が多いことと思います。当然、タンクの空気がなくなれば呼吸は出来なくなります。

 しかし、タンクには必ず「残圧計」と呼ばれる空気の残りを示すメーターがついていて、空気の残りが4分の1になる前に水面に戻るよう指導されているので、水中でタンクの空気が無くなることはまずありません。さらにダイバーは二人一組で行動するように指導されていて、万が一、急激に空気が無くなっても、相方のタンクの空気を二人で呼吸して水面まで戻れるよう、一つのタンクに二人分の呼吸器が装備されているのが通常になってきています。つまり、タンクの空気が水中で無くなることはまずありえないし、万が一無くなっても大丈夫なシステムが確立されているのです。このようにスキューバダイビングというスポーツはルールを守っているかぎり、けっして危険な物ではないのです。そして、もし皆さんがダイバーになりたいと思ったなら、まず始めにルールをしっかりと身に付けなくてはなりません。

 このルールを教えてくれるのが、ダイビングショップなどで行っているダイビング講習です。よくダイビングのライセンスを取得すると言われていますが、これは民間の指導団体が発行するCカードと呼ばれる講習終了証を取得するということです。現在、日本国内にはいくつものそう言った指導団体が活動していて、ほとんどの団体が発行するCカードは世界中で通用します。では、どこの団体のカードを取得するのが一番いいのですかと、良く質問されるのですが、これにお答えするのは非常に難しく、それぞれの団体が営利団体ですので皆さん自身で情報を集めて判断してください。結局のところどこのCカードでもダイビングをするうえでは大差無いと言ってよいでしょう。どちらかというと指導団体選びよりも、講習を受けるダイビングショップ選びの方が大切になってきます。

 現在、国内はもとより、海外にも日本人インストラクターのいるダイビングショップが数多くあり、それぞれがさまざまな形でCカード講習を行っています。都市型の夜間、週末を利用するものから、リゾート短期合宿方式まで数多くのコースが設定されています。その中から、自分に合ったコースを選ぶわけですが、いくつかショップ選びのアドバイスを差し上げましょう。

 まずは料金設定を良く検討してください。ショップによっては講習料金は無料としているところもあります。が、その代わり必要もないのにダイビング器材を全て購入することが義務付けられていて、結局何十万円もの出費になる場合があります。

 次に講習日程を見てください。いくら短期合宿方式でも3日以内で取得できるという所は内容に不足が有ると思って間違い有りません。

 私が個人的にお薦めするのは、ご自宅や勤務先に近いダイビングショップで講習を受けることです。そうすればCカードを取得してからも、初心者のうちは講習をしてくれたインストラクターと一緒にツアーに参加することが出来て、不安なく上達していくことができるでしょう。逆に海外などで短期合宿方式でCカードを取得した場合、せっかく講習を終了しても次のダイビングの機会を捕えられず、ダイビングから離れていってしまう方が数多くいらしゃいます。

 最後に講習を受けるときに、どこまで器材を揃えたらよいかというお話です。基本的に全ての器材はレンタルできるはずで、予算的に無理があれば一切購入しなくても講習は受けられるはずです。だだし、せっかくダイビングを始めようと思ったのならば、マスク、シュノーケル、フィンの3点は購入されることをお薦めします。加えてウエットスーツも出来たら作ってしまいましょう。ウエットスーツは個人個人の身体に合わせてオーダーで作られるもので、レンタルのスーツではどうしても身体に合わない部分が出てきてしまうからです。更に重器材と呼ばれるレギュレーター、BCと言ったものや、ダイブコンピューター等の器材も有りますが、どれもかなり値段の張るものなので、ダイビングを続けていって必要を感じてから購入すれば良いと思います。

 講習を終わってCカードをもらえばあなたもダイバーの仲間入りです。とは言っても、まだまだ海の中を自由に泳ぎ回るというほどうまくは行かないことでしょう。ダイビングを続けていって経験が増えると共に、色々な技術が身に付いて、より自由に、より楽しく海中の世界が広がってくるものです。初めのうちは魚がいるだけでも感動していた人が、さらに奥の世界を求めて、色々な方向にダイビングのスタイルを発展させていきます。魚類図鑑を買ってきて、自分が見た魚の名前を調べて見るようになり、図鑑に出ている魚を全て見てみようと、世界中の海を潜って回る人達もいます。マンタやジンベイザメと言ったより大きな魚を求めて世界を旅して回る人達もいます。ある程度自由に潜れるようになると、水中カメラをもって、魚の写真を撮って自分だけの図鑑作りに夢中になる人達も大勢います。そして、中にはより上の資格を取ってインストラクターへの道を進む人もいることでしょう。そして、ダイビングは健康であるかぎり、いくつになっても続けられるスポーツです。つい先日も私の所で大正生まれのお客様が元気に潜っていかれました。皆さんもこれを機会に是非ダイバーの仲間入りをして、素晴らしい水中世界を覗いてみてください。そして、もし機会があればニューカレドニアの私の所にも遊びにいらして下さい。