世界の国からMacintosh

日本のコンピューター雑誌「マックピープル」に連載していたコラムのノーカット、 オーサーズエディションです。ニューカレドニアのコンピューター事情についてがテーマです。

  

日本語の入力作業は外国人には摩訶不思議

2003/07/01号

 うちはAQUAと言うTシャツとお土産の店をやってまして、衣類に関しては地元のお客さまにも結構お買い上げいただいてます。先日、私がカウンターの中で日本からのメールに返信を書いているとき、家内が接客していた地元の白人女性客が急に静かになりました。あまりに沈黙が続くのでふと振り返ってみると、彼女は私の手元をじっと見つめているではないですか。

 そうです、フランス人にとって普通に見えるキーボードから、瞬く間に摩訶不思議な文字(日本語)が次から次へと打ち出されていくのがとても不思議に映ったようです。おまけに彼女は日本語を少し習った事があるそうで、ひらがなは知っていたのです。

 「いったいどうやってそのキーボードからそんなに早く日本語を打ち出していけるの?あなたの手は早すぎて全然分からないわ!」

 う〜ん、これ説明するのは大変なんですが、ひらがなは分かると言うし、ちょっと時間があったので(美人だったので?)説明してあげました。

「あいうえおは分かりますね。あがa、いがi・・・かはka、きはkiと打っていくんです」

「なるほど、1つの文字を出すのにいくつものキーを使うのね、だからあなたの手はあんなに忙しく動いていたんだ!」

「いや、まだ続きがあってね、ひらがなを漢字に変える作業もしながら打っているんですよ。」

 今や彼女はカウンターの中に入り込んで、私の肩ごしに覗き込んでいます。

「ああ、漢字ってあの中国文字の事ですね。先生がとっても難しいと言ってました。」

 で、今度は漢字変換を教えようとしたら、カウンター越しに別の男性が「おいおい、その日本語って言うのは何文字あるんだ?」と割り込んできました。いつの間にやらカウンターには数人のフランス人がいて、熱心に私の説明を聞いていたのです。

「いや、ですから、日本語と言うのは50文字の日本のオリジナルの文字と、中国の文字を組み合わせて表現するので・・・」

「日本語が50文字なんだな、で、その中国文字は何文字あるんだ?」

「え〜っと、全部で何文字あるのかは私も知りませんが、このコンピューターには2万文字以上はいってます。」

「???」

 彼が悩んでる隙に最初の女性に話を戻して、長めに書いた平仮名の文章を変換してみせました。もちろんことえりの事ですから一発変換できる訳も無く、変換修正まで実演して見せた所、彼女はかなり理解したようです。で、彼女にはお引き取り願って、本来のメール書きを続けようとしたのですが、納得していないのが約1名。

「おまえ、今2万文字って言ったよなぁ。それをお前は全部覚えているのか? いやそれ以前にだよ、キーボードって言うものはなぁ、単なるスイッチに過ぎないのに2つも3つも組み合わせて文字を出力できる訳がないじゃないか!(この先早口のフランス語で理解不能)」

「だから、日本語を扱うコンピューターでは常にキー入力を監視しているプログラムが走っていて、そのプログラムが瞬時に入力を判断して正しい文字を表示してくれるんです。2万あろうと3万あろうとコンピューターがちゃんと選んでくれるから、覚えてなくても大丈夫なの!」

 いや、実際は覚えてなくちゃ漢字変換できないんですが、彼にはとても信じてもらえそうになかったので、この説明でごまかしました。その男性は友人と「そうか、専用のプログラムがあって、きっとAIの様な機能を使って実現しているのだな・・・」などと話しながら帰っていきました。

 それにしても、このことえり、いつになったらAI機能が付いて正しい文字を表示してくれるようになるんでしょうね。自分でついた嘘に自分で悲しくなってしまいました。