ニューカレドニアからこんにちは

日本のコンピューター雑誌「マックピープル」に連載していたコラムのノーカット、 オーサーズエディションです。ニューカレドニアのコンピューター事情についてがテーマです。

  

南太平洋の我が妻との闘争

2002/4/15号(本家 呉氏の闘争はこちら

 皆さんこんにちは、ニューカレドニアAQUA HOMEの高橋です。私のように「天国に一番近い島」に住んでいてもMacを使ういじょう我が妻との闘争は存在します。とは言ってもここは南太平洋、太陽が東から昇って北に進む島です。呉氏の闘争とはかなり趣が違いますが。

 そもそも妻がMacの存在を知ったのはこの島にインターネットが開通したのがきっかけです。私は仕事の都合でホームページを作成せよとの命令を受け、初めてふれるインターネットの世界を解明すべく、この島では存在しない残業までしてMacと闘っていたその頃です。仕事熱心な私はついつい自宅に会社の4400/200を持ち帰ってしまったのでした。

 「インターネットって何?」と無邪気に聞く妻に「これをこうやってこうすると、ほら日本の新聞が見られるでしょ」と説明したのが運の尽き、鼻息も荒く「ちょっとかして!」。以降4400は妻にとりあげられ仕事にならなかったことは言うまでもありません。

 「あのー電話かけたいんだけどー」「今接続中だからダメ。もう一本電話線ひけば。そういえば最近はデジタル回線とか言うのも出来たってよ」。ウーここは日本と違うんだ。ISDN引くのに15万円ぐらいかかるんだぞー、といってなだめすかしたものの何故かボロアパートにアナログ回線が2本。設置費用5万円と月々の基本料金倍増、通話料金3倍増。そうはいっても会社のマシン、いつまでも自宅に置いているわけにも行かず撤収の日がやってきました。やっと電話代が安くなる、回線も一つに戻そうと思った私が馬鹿でした。

 「どーすんのよ!Macがなかったらメールもインターネットもできないじゃない!。今度日本に帰ったら買うからね。あ、Macがあるうちに情報調べなきゃ。ちょっとどいて」。え?どうしてこうなるの?Macって高いんだよ、誰が払うの?という私の叫びは独り言のつぶやきと代わり、「5色のiMacも捨てがたいけどやっぱPowerBookかな、これなら色々もって回れるし。」という妻の独り言は巨大な漬け物石となって私を押しつぶしていくのでした。

 さして日も経たないうちに我が家には99年型PBが存在し、私の記念すべき初の私物のMacはシステムのセットアップが終わると同時に妻のおもちゃと化したのでした。「あんまり変なもんダウンロードするなよ、Macはフリーズしやすいんだから」という忠告もむなしく、デスクトップではクリスマスの飾り付けがピカピカと点滅し、ハムスターが駆け回り、ファインダーの文字はへた字と化すのにさしたる時間はかかりませんでした。

 今まで新しい物なんてなんにも売っていない南国僻地に生息していた妻は、Macの操作に一通り慣れて来たあたりから物欲の権化と変わり果て、「何でもほしがるリサちゃん」の破壊的消費にもはや打つ手もなくなり、私のクレジットカードの情報は世界を飛び回ることとなりました。

「マックピープルは青山ブックセンターが毎月2冊ずつ送ってくれるって」「え、海外でも?」
「今日はポスペパークのジフ川下りだー」。「会費いるんだよねえ?」
「年賀状書くのに宛名職人がいるー」。「え、もう買っちゃたの?」
「ペンタブレットが欲しい!」。「何に使うの?」。「来てから考える!」。
「ハードディスクの容量が足りない!!」。「中身を整理しなさい!」。「じゃCD/RWがいるーー」。
「G3じゃ遅い!今度日本でiBookにとっかえる!!」。「スピードたいして変わらないよ」。「じゃG4カードにとりかえてーー」「・・・」。

 いちおうMacに関する部分だけ抜粋しましたが、そのほか日本でしか買えない日用品から木製の犬小屋までありとあらゆる物がネットで購入され、国際郵便で配送されてきます。そして昨年12月、私たちがオープンしたTシャツ屋のカウンター内には、G4(867)、99年PB、CD/RWにスキャナーにデジカメにプリンター、おまけにADSLモデムと4ポートルーターまでが詰め込まれています。これらの設備の90%は妻のネットショッピングと日本の芸能ネタ集めのために費やされています。

 そして本日到着したもの、「MIST3,EXILE DVD SPECIAL EDITION」。妻は店番をしながらゲームをするつもりです。それも自分のPBでは動作しないDVDバージョンで。私のG4は3ヶ月目にして妻にぶんどられることがほぼ確定しました。

 私たちのように海外に住んでいると確かにインターネットは世界を変えてくれます。しかし、しかしながら世界中の海外生活者へご忠告、妻には絶対にその世界を教えない方が賢明です。万が一知られてしまっても、なんだかんだと技術的な話で煙に巻いて、せめてクレジットカードが使えることがばれないようにすることをお勧めします。

 我が家でもMacがなければ車の一台も買えていたでしょう。我が妻との闘争、所かわれば編でした。