ニューカレドニア 水中ウエディングの旅

 今回世界で初めての水中ウエディングをしたということで、せっかくの想い出を覚えているうちに記しておこうと思い、PCに向かいました。記憶が定かでない部分や勘違い、記述の誤りなどもあると思いますがご了承くださいませ。

少しでも楽しく読んでいただければ幸いです。ばぶきち

 

8/15(木)6日目 水中ウエディング

 少々緊張していたのか夜中に何度も目が覚めた。その都度外をちらと見るのだがわかるはずもない。実際朝になって、バルコニーに出てみたがなんだかどんよりしている。今まででもしかして一番雲が多いんじゃないかしら。。。と思えるほどの空模様だ。迎えの車に乗りヌメアのヨットハーバーに到着した時には、小雨が降っている状態だった。

 今回お世話になるのは「アメデ・ダイビングクラブ」というショップで、インストラクターのBernard Andreaniさんがにこやかに迎え入れてくれた。どうやら神父の役もこの方がやってくれるようだ。「今日は天気はそんなによくないけれど風が全くない。こんな日は波もなくて海面がフラットになるから安全でいいダイビング、いい式ができる」と我々の心配を吹き飛ばしてくれて、いよいよ本当に水中結婚式が執り行われるのだな、、、と少し背筋を伸ばした。スウェットスーツに着替えてボートに乗り込む。事前に観光局からのオファーでテレビ局の方たちも取材に来たいという申し入れがあったようだが、ボートの定員やその他の事情で取りやめになったらしい。ちょっと残念。ボートにはカメラマン、ダイブマスター、Bernardさん、みわこさん、そしてなんとか手配できたと聞いたビデオカメラマンが乗っている。我々を含めて計7名が乗り込んだ。

 Bernardさんが英語でいろいろと説明をしてくれる。カメラマンはプロの方でPierre Larueさん。様々な雑誌に彼の写真が掲載されているらしい。ビデオカメラマンは素人の方だけれど腕がいいので大丈夫、といいながらOKサインを出している。ポイントに到着してからは荷物をまずダイブスコープの中に運んでから我々の準備が始まるようだ。そうして船はエスカペード島の近くにある“シュークロワッサン”というダイビングポイントへ進路を向けた。

 確かに今までにないほど風がぴたりとやんでいる。よかった。。。と喜ぶものの雲が多くて太陽が顔を見せてくれないのでけっこう寒い。(イルカでも跳んでないかなぁ)などとまた可能性の低い野望を胸に抱きつつ、外の景色を眺める。15〜20分ほど走った頃だろうか、なにやら目印があるあたりに向かって減速していくようだ。イカリがおろされエンジンが止まる。さあ、いざ水中へ・・・というのはまだ気が早くて、実はこれからがタイヘン。出発前から様々な疑問が湧いていたうちのひとつ、ウエディングドレスなどをどうやってダイブスコープの中に持っていくのか、という謎がここで解けることになる。

 秘密兵器はなんと圧力鍋。そう、どこの家庭でもよく見かけるアレだ。蓋に手を加えられた鍋はすっかりハゲていて、かなり使い込まれたように見受けられる。そこにウエディングドレス、タキシード、結婚証明書など濡れてはいけないもののなにもかもが詰め込まれてゆく。もちろん一度では入りきるはずもなく、Bernardさんたちは何度も何度も潜りながら圧力鍋を沈めていった。戻ってきたカラの鍋の蓋を取ると、シュウウウ・・・と音がして真っ白い煙がたつ。なかり鍋に負担がかかっているのだろう。まさかこれを発明した人も、鍋の中にウエディングドレスが入るとは予想していなかっただろうなぁ、、、などと勝手に発明者のびっくりした顔を想像してしまいニヤけてしまった。私もたいがいな夢想家だ。

 どうやら準備が出来つつあるようで、我々もタンクを背負い、ジャイアントエントリーで海へ。つ、冷たい〜〜〜!!ざぶんと飛び込んだまましばらくぷかぷか浮いていたが、かえって潜ってしまった方があたたかくてラクな気がするなぁ。。。と思ったもののまだ多少時間がかかるようでそのまま待て、との指示が。おいおい、それじゃあもうちょっと船の上でいさせてくれたらよかったのにぃ〜と半べそをかきながら、せっかくだからと海の中を覗き込む。・・・・・あ、あれがダイブスコープかなぁ。。。もっと丸いのかと思っていたけど、アポロチョコみたいでゆるやかな三角錐って感じ。周りに魚もいっぱい泳いでるし、早くあそこに辿り着きたいよう。。。波に揺られては船の近くまで戻る、ということを何度か繰り返してようやくダイブマスターの方が飛び込んできて潜ることができた。

 ゆっくりと潜水しながらダイブスコープに目をやると、先に中に入っていたBernardさんがスコープの内側からガラスを拭いたりしているのが確認できた。撮影のためにできるだけきれいにしてくれてるのだなぁ。。。と感謝しながら、海底に足が届く。ごつごつした岩のある場所には小さな魚や中ぐらいの魚が優雅に泳いでいる。先に潜った彼は早々にスコープに近づき、中に入る準備をしていた。なんとなく、タンクなどを背負ったまま中に入ってから機材などすべてをおろすようなイメージをしていたのだが、実際はスコープの下でタンクやフィンなどを脱ぐのだ。

 シュノーケルはくわえたまま、中央下部分にある梯子からのぼり、スコープの中でウエットスーツを脱いで、あらかじめ用意されていたバスタオルで体中を拭く。スコープの中はとても暖かくて、冷えたからだがほんわかとしてきて非常に心地がいい。首を上に向けると海面らしきものがゆらゆら揺れて見える。。。外からの海もきれいだけれど中から見るとまだ違ったきれいさが浮き彫りになるなぁ。。。と呆けてしまう。空は雲で覆われていたことなどすっかり忘れてしまうほどの美しい海に心が震えた。

 ざっと拭き終えたら水着の上からドレスを着用だ。彼はひざ上ぐらいまである長さの水着だったので、どんなに拭いてもタキシードのズボンがかなり濡れてしまうことを申し訳なく思っていたようだったが、気にしないでいいですよ〜とみわこさんに言われて少し安心していた。私は肩がわりあい出るタイプのドレスだったので、ホルターネックの水着の首の部分をはずして胸のあたりに詰め込んだ。写真で見たときは全く考えていなかったのだがこれならストラップレスタイプの水着などを着ていった方がラクでいいなぁ、男性はビキニパンツか?などと思いつつ着替えが終了。

 スコープから外を見るとのんびりとした海底の風景が広がっている。ガラスのすぐ外側にメダカよりもちっこい魚が数匹寄って来てちょろちょろ泳いでいる。ひゃ〜〜、こんなに小さいのは見たことがないぞ。。。ものすごくかわいい。別の場所には20センチぐらいの白い魚が近づいてきた。ダイブスコープが水槽ならぬ空槽?となると、我々が魚から見られてる立場。。。少々複雑な気分になりながら足元を見ると、ボトルが目に入った。乾杯用のノンアルコールドリンクだ。さすがに式のあとまた海中に戻るということで、シャンパンといきたいところだがぐっとがまん。

 髪をアップにしてもらって前髪は手ぐしで横へ流す。マスクをしていたせいで陸上からしていた化粧はかなり酷状態だろうな、と思っていたのだがみわこさんは「ほとんど崩れてないですね」と言って簡単に口紅だけ塗りなおしてくれた。手鏡を見せていただくと。。。ぎょぎょ、ファンデーションがひどいダマになってるんですけど。。。でも海の中からの撮影だからそんなに気にならないのかな・・・うん、きっとそうだ、と自分に言い聞かせる。右頬の怪我の傷跡も隠れていないままだったがヴェールをかけてもらいながら(これでなんとかごまかそう)と目論んでいたのだった。

 式は『立会人挨拶、指輪交換、ウエディングキス、サイン、乾杯』という流れで行われる。Bernardさんから「世界で初めての水中ウディング、おめでとう!」というような内容の祝辞があり、結婚指輪の交換に移る。あらかじめ説明を受けていたのだが、どの動作もゆっくりしなければならない。それは写真とビデオ撮影のためなのだ。しかもそれぞれのために二回ずつ。まずはスコープの外でカメラをかまえているPierreさんに向かってゆっくりゆっくり指にはめていく。時には静止して。それがすむと今度はビデオに向かって、普通のスピードでもう一度。我々の場合はバリで挙げてから、これが二度目の結婚式なので内心すっかり面白がってこのウエディングを楽しんでいたのだが、ここではじめて結婚式を挙げるカップルがいきなり指輪を交換したあと、すぐ抜いてまたはめる・・・という流れをどう捉えるだろう、複雑な気分かなぁ・・・なんておせっかいな思いが頭をよぎっていた。

それより我々が辛かったのがウエディングキス。バリのときですらまともにチュウなどしていないのに、ここで撮影のために何度も何度もしなくてはならなかったことだ。狭いスコープの中で目の前にはBernardさんとみわこさんがにこにこしながらこちらを見ている。時間にしてどのぐらいだったかまったくわからないが、かなり長い時間費やされたように感じて非常に照れくさかったのだった。

 サインも無事終了し最後にフレンチスタイルでの乾杯だ。かわいい飾りが施されたグラスを右手に持ち、そのまま腕を絡めながら飲む。口に入れたとたんに舌に刺す泡を感じる。あれ、、、これって、お酒入ってるんじゃないかな??後でボトルを見てみるとアルコールが5%ほど入っていたようだ。少々はご愛嬌、ということかな。ここでも腕を絡ませたままグラスを口につけて静止。。。とはいえ、グラスの中身はするすると腹の中へ・・・カラになったグラスで乾杯するのも少々カッコ悪いので、途中で少し注ぎ足してまたフレンチスタイルに。飲むフリができない我々であった。彼との身長差が20センチある私は、グラスを美しく自分の口元へ持ってくるのに少々苦労したものの、あとで見たアルバムの写真はなかなか素敵な出来上がりで、かなり満足したのである。

 当初、“撮影は外からのみ”と聞いていたのだが、Pierreさんがスコープの中に入ってきてくれた。そして中からも至近距離で撮影・・・わーー、ボロボロの顔がああ・・・と思いながらまた指輪を交換したりして、本当にたくさん写真を撮影していただくことになった。実際出来上がった写真は化粧のハゲているのなどはほとんどわからない状態だったので、かなりホッと胸をなでおろしながらやはり少々は見えてしまった傷跡に(せっかくの結婚式なのにこんな状態だなんて、どんくさい私らしいな)と苦笑。それにしても、かなりのテクニックが必要な海中写真をとてもすばらしく撮って下さったPierreさんに感謝の気持で一杯だ。アルバムは式の翌日に受け取れるのだが、ビデオは編集などがあって3週間ほどかかる、とのことだった。今これを書いてる時点ではまだビデオは到着していないので、早く届かないかとこれまた楽しみにしているのである。

 ボートにあがるまでにちょっとした海中散歩があると聞いていた。「疲れたらいつでもあがってもらっていいですよ」というみわこさん。いそいそとダイブマスターについていったのだが、なんだか様子がおかしい。スコープを出た我々は明らかに水面に誘導されている。(お散歩は??もうちょっと潜りたいよう)という意思を伝えるまもなくすっかり浮かびきってしまった。ボートの上でタンクを下ろした私は、徐々に寒さが身にしみてきてしまい、バスタオルを体中に巻き付けてうーーとふるえあがっていたので結果的には長い間海に潜っていて、これ以上身体を冷やさずにすんだのだと思うことにした。ちぇ。

 ヨットハーバーに戻るとジョエルさんが待っていてくれていた。「おめでとう」「ありがとうございます」なんだかやっぱり気恥ずかしい。それでも、ずっとずっと想像して、待ち望んでいた水中ウエディングをとうとう実行できたのだ、という感動でいっぱいだった。近くの建物の中にあったシャワールームで海水を流して着替える。ふう。かなりあたたかくてほっこり。ホテルまで車で送ってくれる、とのことだったのだが、目の前にある車には大きなリボンがななめにかけてある。もしかして、この車・・・?

 2人で顔を見合わせながら、くすぐったいような気持で後部座席に乗り込んだ。一緒にダイブしたスタッフたちに別れを告げて、車は一路メリディアン目指して出発。“カッチ、カッチ、カッチ・・・”と音がするのに気付くと、パーキングライトがつけたままになっている。気付いてないのかな?それとも何か理由があるのかしらと思いながら「あの、、、ライトついたままですが。。。」と伺ってみたところ「ニューカレドニアでは結婚式がすんだカップルをお祝いする為に、こうしてライトをつけたまま、時々クラクションを鳴らしては道行く人たちから手を振ってもらってお祝いを受ける習慣があるのよ」と教えていただいた。

 なるほど、外を見ると確かに観光客と思われる人はクラクションの音にびっくりしてこちらを振り向くが、にこやかに手を振ってくれる人も大勢いる。現地の人と、そうでない人というのがこれで見分けられるかも(笑)しかし、我々の格好ときたら二人ともTシャツに短パンというかなりふざけた状態。ハタから見れば結婚式を終えた幸せなカップルのはずか車内に座ってるのはしょぼくれた我々だなんて・・・こんなことなら車内からにっこり手を振り返せるぐらいのこましな服でも着ておけばよかったかも?翌日もシトロン湾沿いを同じ車が何度も行ったり来たりしながら、クラクションを鳴らしている光景に出会った。あ、今日も結婚式がどこかであったんだな、とわかる自分になんとなく嬉しさを感じていたのだった。

 午後からだんだんと天気が崩れていき、夜にはひどい雨になってしまった。この日は木曜日で、アンスバタビーチに夜店が出るはずだったのだが、どうもこの天気ではムリみたい。さらに、実は8/15というのはニューカレドニアの祝祭日「聖母昇天祭」。町のレストランなどは日曜祝日にお休みのところが多く、開いているお店を探すのに一苦労。結局シトロン湾の「L'ASTROLABE」というシーフード&肉料理のおいしいというお店に決めた。ボリュームがかなりあって、味もなかなかイケる。またしてもお腹一杯食べてしまった。そして部屋に戻り、日本から持ってきていたシャンパンを開けて、めでたく水中ウエディングができたことを祝ってふたりでささやかな乾杯を。