投稿旅行記≪かずこ編≫

個人旅行、一人旅で1ヶ月の滞在をしたかずこさんのニューカレドニアでの 生活についてのエッセイです。長期滞在型モーテルでの人間模様や、 4泊5日のリフー島での貴重な経験が綴られています。

 

page1

 初めての一人旅。選んだのはニューカレドニア。滞在期間は4週間。
4週間と聞いて驚く人ばかり。あからさまに怪訝な態度を取る人もいる。「実際、なんでニューカレなの?何が目的?なんでそんなに長期で行けるの?」

 そんなに不思議なのかな?どうしてそんなに理由を追求するの?行く前から。行く前から決めてなくてはならないの?そんなマニュアル必要なの?。私はダイバーでもないしフランス語もできない。でも行きたいんだからいいじゃない。

 行ってから感じる事に理由を見つけるはず。行く前から理由なんてそんなの私にはない。

 4週間の滞在中、私は4泊5日でリフー島に行くことにした。日本を出る前から離島に行けるならリフーがいいと思っていたのは、ニューカレドニア観光局のホームページで見たロンガニ ビーチの写真と、地球の歩き方で読んだ中島良平さんという方の離島でのルポがずっと心に残っていたから。そのルポの中でとりわけリフーでのエピソードが好きだった。


 アンスバタにあるキッチン付きのモーテルを借りて自炊しながら宿泊していた私を、4人のモーテルのスタッフが、子供のままごとに付合うように優しく家族のように接してくれる。私が29歳だと何度言っても 子供に見える と言って笑っている。私がキッチンで料理するのを心配そうに見ていたりする。

 朝、うとうとしていると廊下からジャポネーゼ、カズコ、、、、あきらかに自分をさしている会話が聞こえてくる。部屋のドアを開けると「まだ寝てなさい」「朝御飯は食べてるのか?」「今日は天気いいからビーチに行きなさい」「カズコ、痩せた?」とスタッフのクロディー、マリア、パトリス、それに交じって長期滞在の宿泊客にまで質問攻めにあう。

 マリアが「ニューカレドニア、好き?」と聞くので「このモーテルがいちばん好き。」と答えるとみんなが順々に日本語で「アリガト〜カズコ〜」と手を振って自分の仕事に戻っていく。スタッフと一緒になって私の様子を見にきていた宿泊客は72歳のフランス人男性。日本人の女の子に目がなくて、その日も日本人の女の子を物色するべく軽快な足取りで陽気に手を振りながら出かけていった。

 みんながいなくなったのでドアを閉めようとして気がついた。私の部屋のドアノブに『ドント ディスターブ』のカードが掛かっている。いつも宿泊客のなかでいちばん最後まで寝ている私のためにパトリスが朝、掛けておいてくれたらしい。これで意味が分かった。

 部屋を掃除しようとしたマリアとクロディーがそのカードを見てジャポネーゼはどうしたの?天気が良くても寝てるのは疲れているのか?それともカズコはニューカレドニアが好きじゃないから部屋に居るのか?そこにパトリスが来てみんなに「この子は朝寝坊だから寝かせてやろう。」みたいな事を言っていたらしい。

 私の部屋の掃除とベッドメイキングをしてくれていたクロディーに「明日からリフーに行くよ。」と言うと部屋の替えのタオルを2枚持ってきて「リフーに持ってきなさい。」と差し出してきた。私が大丈夫、向こうのホテルにもタオルあるから、となんとかジェスチャーまじりで伝えるとどこかに行ってしまった。

 あれ、怒ったの?と思っていたら今度はまた補充用のトイレットペーパーを持ってきて私に差し出す。「リフー、トワレ、ノン、ノン、、、」なんだか必死に言うので私は受け取ることにした。クロディーの優しい気持ちが嬉しくて胸のあたりが切なくなってくる。

 「メルシー、クロディー!」笑顔で言うと笑顔が返ってくる。親指を立てて「カズコ、エンジョイ、リフー!!!」とビズをして他の部屋の掃除をするために出ていった。翌日、バッグにトイレットペーパーを忍ばせて私はアンスバタを後にした。

 マジェンタ空港に行くからタクシーを呼んでね、とフロントで頼むとフロントで働くパトリスが「カズコ、オーケー!ノー プロブレム!!」と言ってどこかに電話しだした。「アロー、モシモシ〜、*#%!$*、、、」

 少しするとパトリスの友達が車で迎えに来てくれた。丁度、パトリスもその日の仕事が終わりの時間だったのでパトリスとその友達がマジェンタ空港まで送ってくれることになった。

 人に甘えることや親切にされることに不器用だったのに、その頃にはすっかり甘え上手になっていたように思う。お礼をしなきゃならない、なんていう考えもなくなってきていた。なにかしてあげたい、という気持ちでいっぱいになる。そういうことを知るために私はここにきたのかもしれない。右側に小さな建物が見えてきた。パトリスが言う。「カズコ、リフー、ボン ボワヤージュ」


 マジェンタ空港は小さくて可愛らしい。思わず「プチ エアポート!」と叫んでしまう。自然に顔もほころんでしまう。二人に見送られてからフライトまでの待ち時間を含めて2時間弱でリフーに到着。

 不安になるくらいの曇り空、そして周りはうっそうとした木々と砂利道。迎えに来てくれていたメラネシアンのドライバーが運転するワゴン車に、フランス人の初老の男性、フランス人の女性、日本人カップル、そして私の5人が乗り込んでホテルに向かう。

 途中、最初にフランス人の初老な男性が降りる。この人はリフーに住んでいるらしく自分の家のそばで車を停めてもらっていた。私が日本から1人で来たことを目を丸くして驚いていたけど「リフー、ナイス。ウェルカム、リフー。」と私の顔を見てゆっくりと言ってくれた。きっとこの人の目にも私がうんと幼く見えていたんだと思う。

 「メルシー、ムッシュ。オヴォワー!」と言うと「ビヤン!」と笑って車を降りていった。お互いが見えなくなるまでずっと手を振り合ってお別れする私を、ドライバーが笑ってからかう。「ユー、ヒズ フレンド?」  

 次に車が止まったのはリフーでいちばん人気があるホテル。ほとんどの日本人観光客はここを利用するとドライバーが教えてくれた。日本人カップルはそこのホテルで車を降りた。

 そしてさらに20分ほど車は走る。乗客は私とフランス人女性だけ。あまりにもなんにもない変わらない景色に彼女は不安そう。「私とあなたはきっと同じホテルだね。」と英語で言うと「アイ ドント ノー イングリッシュ」

 ニューカレドニアに行って思ったこと。フランス人は英語が苦手、、。私が「ジュマペル カズコ」と言うと、彼女はやっと笑顔になって「ジュマペル クレア」と答えてくれた。「ホテル、オアシス ド キアム?」「ウイ!」 

 ホテルに着くと綺麗なメラネシアンの女性スタッフがたくさんいた。みんな背が高くて髪を後ろにひとつで縛っている。目を惹くのは彼女達が着ている色とりどりのミッションローブ。背が高くて褐色の肌の美しい彼女達によく似合う。

 オアシス ド キアムはバー、レストランを兼ねているせいかスタッフはみんな美人ぞろい。ちょっとホステスっぽいことも、お客の洗濯も同じ笑顔と同じ態度で毅然とこなしているところが魅力的だった。

 そんな中でもいちばん目立って美しい女性が部屋まで案内してくれる。彼女の名前はサンドラ。私が好きなラヴァーズ レゲエのシンガーと同じ名前だったからすぐに彼女の名前を覚えた。何度も顔を合わすたびに「サンドラ!」と呼ぶ私に何度目でも笑顔で「サヴァ?」と答えてくれる彼女が大好きだった。

 ちなみにそのホテルで英語ができるのはサンドラだけだから、なんでもサンドラに聞いてね、って言われていたけどサンドラの英語力は私のフランス語力とほぼ同程度。でも大丈夫だった。なんの不自由さも感じない。

 地球の歩き方で中島良平さんが書いていた一節が何度も頭に浮かぶ。

『少しの単語と笑顔だけでもコミニケーションは深まる、ということをニューカレドニアが教えてくれた。』