投稿旅行記≪かずこ編≫

個人旅行、一人旅で1ヶ月の滞在をしたかずこさんのニューカレドニアでの 生活についてのエッセイです。長期滞在型モーテルでの人間模様や、 4泊5日のリフー島での貴重な経験が綴られています。

 

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 朝。部屋を出るとプールサイドのテーブルにホテルのスタッフが集まっている。一番に気付いてくれたのはフェビアン。にっこり笑ってこちらに手を振っている。フェビアンの隣に座っていたのはアデル。彼女もキアムのレストランシェフ。どっしりとした体格の彼女はいつでも歌を歌っている。彼女の歌声と彼女が歌うメロディがとても好きだった。

「カズコ!サヴァ?」 フロントからリディアが声をかけてくれた。「ウィ。サヴァビヤン!エトワ?」

 リフーは楽しい?学校で写真は撮れた?ロンガニは寒かったでしょ?と聞くリディアに私はファラと出会った話をした。そしてこれからファラの家でランチをご馳走になる約束をしていることも。リディアは大きな目をもっと大きくして言った。「ナイス!私もファラは大好きよ!ファラはとっても優しいわ!」


 ファラの家に着くとファラの娘、カゴールがレタスサラダを作っていた。キッチンからはチキンを焼く香ばしい匂い。ジョロワンはテーブルにお皿を並べている。ファラとファラの家族が温かく迎えてくれる。私はみんなとビズをして席に着いた。テーブルにはレタスサラダ、ミートスパゲティ、グリルしたチキン、バゲット。テーブルは料理と優しさでいっぱいだった。

 全員が席に着くとジョロワンがお祈りを始めた。みんな手を組み合わせ、目を閉じる。私も祈った。どうかこの家族がこのままずっと幸せでありますように。いつかまた、この場所に戻ることができますように。神様、この出会いを与えてくれてありがとう。

 食事中、何度もみんなが「セデラがまだ帰ってこない」と言う。「セデラって誰?」と聞くとジョロワンが「僕の妹。」と教えてくれた。セデラは学校でも家でもどこかにすぐ消えて帰ってこないのよ、とカゴールが困った顔で言った。

 食事の時間はとても楽しかった。私は感謝して料理を味わう。香ばしく焼けたチキン、少し茹ですぎだけど懐かしい味がするミートスパゲティ。子供の頃、夏休みに田舎の祖母の家に預けられていた日を思い出した。祖母が私を喜ばせようとして作り慣れないハンバーグやカレーを作ってくれた。そしてこんなふうにちょっと茹ですぎたミートスパティも。


 カゴールがセデラを連れて戻ってきた。セデラは真っ先に私のところにやってきてビズをした。そして着ていたパーカーのポケットからお手玉を取り出して「メルシィ!」と笑った。昨日、学校のトイレから恥ずかしそうに出てきた女の子。ふわふわした金髪と大きな瞳。

 「昨日、この人、学校に来て写真を撮ってた。私にお手玉をくれたよ。」とセデラがファラに言っている。ファラとカゴールは別に驚くこともなく「良かったね。」と笑っている。私はこんなに可愛いセデラにまた会えたことが本当に嬉しかった。

 食事が済むとカゴールが大きくて立派なパイナップルを出した。「これはファラからあなたにプレゼントよ。」私はこんなに自分をもてなしてくれるファラにどうやって感謝を伝えたらいいのだろう。大きくて温かいファラの手を握るとそれだけで胸が詰まって言葉が出てこない。

 ファラは笑って「まだ1週間ヌメアに残るんだからこれを持っていきなさい。ヌメアの友達と食べなさい。」私は首を振って「ありがとう、ファラ。でも一緒にみんなで食べましょう。」ファラはもう一度「持っていきなさい。」と言ってくれたけれど私はやっぱりここでみんなと一緒に食べたいから、とお願いした。

 カゴールが食べやすいようにカットしてくれたパイナップルをみんなで食べた。家族みんなで一緒に食事をする。最後のデザートも一緒に。きれいな黄色の果肉と甘酸っぱい味は今でも鮮明に思い出せる。

 ジョロワンとセデラは学校に戻っていった。最後にビズをしたときジョロワンが日本式にお辞儀してくれた。カゴールはヌメアにいるボーイフレンドに電話をかけている。


 アンヌマリーに逢ってお礼を言いたい、とファラに伝えると一緒にアンヌマリーの家まで行ってくれた。だけど彼女はまだ仕事から帰っていないらしく留守だった。「アンヌマリーには私がお前のお礼を伝えるから。」とファラが言った。ファラの家に戻り2人でコーヒーを飲んだ。

 ファラは家族の写真でいっぱいのアルバムを何冊も見せてくれた。この人が今は天国にいる私の夫。これはジョロワンのパパとママの結婚式、ジャクリーヌのウェディングドレスが綺麗でしょう?こっちはヌメアにいる私の息子。これは小さいときのカゴール。見て!産まれたばかりのセデラ!ジョロワンが抱いてるわね。セザの写真もあるわよ、一緒に写ってるのは従兄弟のヤニス。

 一枚、一枚に嬉しそうに家族の話をするファラ。その写真はどれもとてもすてきだった。私は何度も何度も見返した。「お前に家族ができたら写真を送ってね。」そう言うファラに「ウィ。」と答えると私の手首を掴んで「こんなに細くて子供が産めるかしら?」と笑った。

 時間がゆっくりと過ぎていく。

 ファラに出会えたこと、ファラの家族みんなに優しくしてもらったこと、何度もご馳走になったこと、すてきな写真をたくさん見せてもらったこと、本当に美しい時間をたくさん貰った。私はゆっくりと丁寧にお礼を言った。難しい言葉は解らないけれどきっと私の気持ちは伝わっている。


 リフーから戻るとモーテルのみんなが優しく迎えてくれた。トイレットペーパーを持たせてくれたクロディーが「カズコの部屋は私がきれいに掃除しておいたよ。」と私の部屋を指差して言う。

 マリアは「カズコ、リフーでブーニャは食べた?ヤシ蟹は食べた?」どっちも食べてないよ、と答えると大きくため息をついて「可哀想に、カズコ、、、。今度、私の家でブーニャを作ったら分けてあげるからね。」と私の肩を抱いた。

 一人旅を心配してくれたクリスチャンは笑顔で「オカエリナサイ、カズコサン。」と日本語で言う。私も日本語で「ただいま、クリスチャンさん。」と答える。パトリスは大袈裟に「オー!カズコ!!」とビズをする。

 次の日、パトリスが「カズコ、どうしてリフーにしたの?」と聞いてきた。私は地球の歩き方を見せて説明した。「このガイドブックにたくさんニューカレドニアと離島のことが書いてあってリフーのエピソードが好きだったから。」

 私は中島良平さんの体験談のページを開いていた。パトリスは地球の歩き方を見てこう言った。「去年、シャイな日本人の男がここにずっと泊まってた。とてもマナーも良くて。日本のガイドブックのライターで取材に来てるって言ってたな。離島も回ってたと思うよ。彼の名前は、、、、そうそう、思い出した。彼の名前はリョウヘイ ナカジマ!」パトリスは懐かしそうに「リョウヘイは楽しい男だったよ。」と言った。

 私はあまりの偶然にびっくりしたけれどとても嬉しくなった。「パトリス、私がニューカレドニアに来ようと思ったのは彼が書いた体験談に惹かれたから。リフーも彼の体験談を読んで彼のエピソードがすてきだったから決めたんだよ。」パトリスは心から驚いた様子で「オー!リョウヘイ!!!」と叫んだ。そのあと、すぐに思い出し笑いをして言った。

 「リョウヘイはシャイだからビズしようとすると ノー! って逃げるんだ。」